忍者ブログ
14 . May
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

17 . November
ライト編続き。これにて終了




 神様に立てた誓いを果たすべく、俺は人一倍努力して剣術の修行にも励んだ。
学業の成績はそれほど良いとは言えなかったが、学校での剣術大会に優勝したこともあって、
13歳になった時に騎士団への入隊が認められた。
あんな子どもがと、やっかまれることも多かったが自分に対する罵詈雑言の類はもう慣れたものだった。
文句を言う奴には成果を見せて黙らせた。
 学校と騎士団との両立で忙殺され、帰ってくれば死んだように眠る日々が続いた。
騎士団は思い描いていたような綺麗なものではなかった。汚いこともたくさんやらされた。
人々を護るなんてのは体のいい言葉だ。
何かを護るということは、その何かを傷つけようとするものを逆に傷つけるということ。
その傷つける相手は魔物であり、そして同じ人間でもあった。
もちろん病を患った者や怪我を負った者を助けたり、災害時の救援活動やその後の支援などそうでない仕事だってある。
だが、力を持つが故に俺に回ってくるのはそういう仕事ではない。常に何かと戦い敵対し続けることだった。

 そうして15歳の時に学校を卒業して活動の場は騎士団のみへと移り変わる。

 
 ある任務を終えて教会本部に帰投した翌日、教会を統べる存在である教皇様の執務室に俺は呼び出されていた。
組織のトップの人間の部屋にしては質素で飾り気がなく、部屋の持ち主が節制のある人間だということがうかがえる。

 「ライト、何故ここに呼ばれたか分かっているわよね?」

 怒気を帯びた顔つきで目の前の人物が俺に尋ねる。

 「……わかりません」

 分かりたくもないと思ってそう答えた。教皇、イリス様は呆れ顔をすると大きくため息をついた。

 「ハァ、生意気小僧っぷりは変わらないわね。レオナールから聞いたわよ。
  北アトリア山岳での魔物退治で、隊に大きな被害を出したそうね。自分の立場分かっている?
  貴方はもう隊長なのよ?少しは周りのことも考えなさい。貴方の力量ならもっと被害を最小限に抑えられたはずよ」

 確かに先日のあの任務では隊に多くの死傷者を出した。
任務の内に入っていない山頂付近の魔物もこれを機に倒してしまおうと挑んだのだ。
どうせいつか来ることになるのなら今やっておいた方がいい。
何より、近隣の村に被害が出る前に叩いておくべきだと考えた。何かがあってからでは遅いのだ。
 思っていたよりも数は多かったが、勝てない相手ではない。
そう思いひたすら上へ上へと魔物を蹴散らしながら突き進んだ。予想外だったのは敵の数ではなく味方の力量だった。
あの任務では隊の大半が現地の騎士で構成されており、どの程度使えるものかを把握していなかった。
魔物の全てを相手にしていると時間がかかるので、脇をすり抜け下っていった何匹かは見逃しそのまま一人突き進んだ。
後続の隊員たちが倒してくれるだろうと軽く考えていたがそれは甘かった。
俺と彼らには天地ほどの差があったのだ。俺が魔物の親玉を倒し、隊を振り返った時にはもう手遅れの状態だった。
俺が見逃した魔物たちによって隊は壊滅状態に追い込まれていた。

 「イリス様は俺のことを買い被り過ぎですよ。だいたい騎士なら自分で自分の身を守るのは当然のことでしょう」
 「そうかもしれないけど……!」
 「じゃあ、もう俺に隊を持たせるのはやめて下さい。はっきり言って足でまといなんですよ。
  面倒みきれません。俺一人で十分ですから」

 俺だって何でもできるわけじゃないんだ。
勝手に荷物を押し付けおいて、少しでも取りこぼしがあったら糾弾されるなんてたまったもんじゃない。
だったら最初からいない方がいい。
俺がそんなことを考えていると、乾いた空気の室内にバンと机を叩く音が鳴り響いた。

 「甘ったれるのもいい加減になさい!貴方、神つきの騎士を目指しているんでしょう?
  神様っていうのはこの地上の人々全ての守り神なの。その神様を守る騎士は一緒にそれを背負うってことなのよ。
  一部隊も背負い切れないような人間には到底任せることなんてできないわよ」

 そんなの知ったことか。俺が護りたいのは他の誰でもない、神様ただ一人だ。

 「だいたい、その前提がおかしいんですよ。神様だって元はただの一人の人間なのに。
  世界の全てを背負わせるなんて間違ってますよ」

 自分でなりたいと言ったわけでもないのに、それが使命だからと勝手に世界を背負わされて、
人々を救わなきゃならないなんておかしな話だ。そんなのまるで世界の奴隷じゃないか。

 「それは私だって常々思っているわ。だから私たち正教会が神様を支えるのでしょう。
  神様の助けに少しでもなりたいと思うのなら、一人でも多くの人間を救いなさい。
  それが神様の背負っているものを一緒に背負うってことよ」

 もちろん神様を支えたいとは思う。その気持ちに嘘偽りはない。
だけど、本当に人々を救うことが神様の助けになるというのだろうか。
結局、神様に何もかもを押し付けていることには変わらない。

 「分かりましたよ。話はそれだけですか?」

 これ以上はもう何も聞きたくなかった。

 「……もう、いいわ。少し頭を冷やしてきなさい」

 向こうもこれ以上話しをしても無駄だと思ったのかそう言って退出の許可を出した。

 「失礼しました」

 俺は軽くお辞儀をして執務室を後にした。バタンと扉を閉じた途端、緊張が解け長い息がこぼれる。



 「また、イリスさんに怒られたのかい?」

 突如、後ろから声をかけられびくりと体が震える。それにこの声は。

 「神様!いらっしゃっていたんですか!?」

 沈んでいた気持ちが一気に浮上する。神様に会うのは実に何ヶ月ぶりだろうか。
カシャカシャと鎧の重苦しい音を立てながら駆け寄る。

 「あぁ、二週間くらいは本部に滞在する予定だよ」
 「本当ですか!?あ、でも俺はまた明日から遠方で任務が……」

 それを思い出してまた気が滅入ってきた。折角、神様が本部に戻ってこられたというのに。
一日と一緒にいることができないだなんて。

 「随分と忙しいのだね」
 「ええ、でもこれも神つきの騎士になるためですから」

 そう、一刻も早く神つきの騎士になるためにもより多くの任務をこなし実績を出さなければならない。
神つきの騎士になれさえすれば、こうして会えない日々に心を痛めることもなくなるのだから。
だからこそ、今は辛抱しなければならない。

 「そうかい、そうかい。君ならきっとなれるだろう」

 そう言って柔らかい笑みを浮かべて、俺の頭を撫でる。
ああ、この人さえいてくれれば何だって頑張れる。何だってできる。
そう思った時、俺が思いもしていなかった言葉が投げかけられた。

 「次の神様がいい人だと良いね」

 それを聞いて頭の中が真っ白になった。

 「なに、言ってるんですか……?俺は、貴方の騎士になるんです!次の神様なんていらない!」
 「そうは言っても私ももう歳だからねぇ」

 またあの顔だ。いつの日か、教会本部の裏庭のテラスで話した時のことを思い出す。
悲しげに眉を寄せて困ったように笑う、そんな顔。

 「そんなこと言わないでください!俺、もっともっと頑張ってすぐに神つきの騎士になりますから、
  それまで待っててくださいよ!俺のたった一つの夢なんだから!」

 それだけが俺の生きるしるべ、希望の光なのに。
なくなってしまったら、俺はまた光のない暗闇だけの世界で生きなくちゃならない。そんなのはもう嫌だ。

 「ライト君、やはりまだ他の人々を好意的に見ることはできないのかい?」

 質問の意味がよくわからなかったが、とりあえず率直に答えた。

 「……すみません、今はまだ」

 今まで生きてきて、神様以外の人間を肯定的に見ることは未だできていなかった。
いつだって俺を見る周囲の視線は冷たいものばかりだ。

 「騎士団の連中は、若造のくせに生意気だとか化け物だとか言ってくるくせに、
  いざ前線に立ったら頼ってくる腰抜けばかりだし、
  民衆だって教会が自分たちにとって都合のいい働きをした時は褒めたてるけど、
  そうじゃなくなったら手のひら返しで糾弾してくる。そんな奴ら好きにも、守ってやる気もしませんよ」

 出世と権力のことしか頭にない教会の連中に、自分たちの幸福のことしか考えていない民衆。
人の汚さと言うものにはつくづくうんざりしていた。

 「まあ、そう言ってやりなさるな。みんな苦しいだけなんだよ」
 「そう、なんですか?」
 「ああ。怒ったり何かに当たったりするのは助けて欲しいのサインなんだよ。
  いつか君にはそういう人たちを本当の意味で助けてあげられる人になって欲しい。
  今は君自身その苦しさに囚われているから難しいかもしれないが」

 俺が軽蔑している人たちも、俺と同じだと言うのだろうか。
みんな自分を取り巻く苦しみをどうにかしたくて、でもどうにもできなくて当り散らしているだけなのだろうか。

 「神様は苦しくないんですか?誰かに助けて欲しいと思わないんですか?」

 神様は過去を思い出すようにして、ゆっくりと言葉を連ねていった。

 「私は十分色んな人に助けてもらってきたからね。
  その分、そうやって与えられてきたものを、持っていない人たちに分け与えてあげたいんだ。
  それが持つ者の責務だと思っているから」

 責務、か。

 「あの、ずっと前から聞きたかったことがあるんですけど」
 「何かな?」

 神様は首を傾げる。本当に聞いてしまってもいいのか。後悔しないか。
やめておいた方がいいのではないか。そんな思いが頭を占める。だが、どうしても聞かずにはいられなかった。
昔、ある少年に言われた言葉。あの日からずっと不安だった。

 「神様は神様だから俺のこと助けてくれたんですか?
  今、こうして俺のこと相手にしてくれるのも神様の責務ってやつからきてるんですか?」

 笑えてくるぐらいに声が震える。自分はこんなにも臆病だっただろうか。

 「どうだろうね。でも君の目を治してあげられたのは神だったからだろうね」

 返ってきた答えは俺の望んでいたものではなかった。

 「そう、ですか」
 「すまないね、ライト君。私は君の求めている答えを言ってあげることはできないんだ。
  私はみんなの神様だから、君だけの神様になってあげることは」
 「もう、いいです!言わなくたって分かってますよ、そんなこと……」

 そうだとも、何を勘違いしていたんだ。神様は俺の親でも何でもない。
誰にでも平等の愛を分け与える神様なんだ。俺だから愛してくれていたんじゃない。

 「……神様が、神様じゃなければよかったのに」

 俺が本当に欲しかったのは、よく見える目なんかじゃない。特別な力を与えてくれる神様でもない。
俺のことだけを愛してくれて、寂しい時に傍に寄り添ってくれる存在だったんだ。

 「ライト君……」

 目頭が熱くなってくる。こんな格好の悪いところは見せられない。

 「明日は早いので失礼します」

 神様に背を向けて寮の方へと足を向ける。

 「ライト君!ああは言ったけど、君のことを大事に思っているのは本当だよ。
  私はいつだって君の味方だ。辛いことがあったらいつでも頼りに来ておくれ」

 神様はずるい。そんなことを言われたら抱きついて小さな子どもみたいに大声で泣いて縋りたくなるじゃないか。
でもそれが許される相手ではないことが今ようやく分かった。

 「それじゃ、駄目なんです。イリス様にも怒られましたよ。今度は俺が神様の力になるんです。
  いつまでも、弱いままじゃいられませんから」

 これからは神様を崇める一信者として生きよう。それが本来あるべき形なのだから。

 「そうかい、でも無理はするんじゃないよ。それに私は君が健やかに成長していく姿を見ているだけで、
  じゅうぶん力をもらっているよ」

 一粒の雫が頬の上を滑り落ちた。こんなにも近くにいるのに、遠い。

 「……っ!次に会う時までお元気で」

 振り返ることなく、歪んだ視界の中がむしゃらに寮へと走った。

 
 俺のことだけを見てくれなくてもいい。
 でも、どうか貴方のために生きることだけは許してください。






 あれから七年の月日が流れた。
しかし、どれだけ時間が経っても私の神様に対する愛は変わらない。むしろ年を重ねるごとに強くなっていった。
神様は私のことを愛してくれた。それがどんな形であったとしても。
だから今度は私が神様を愛すのだ。神様の助けとなる。七年前にそう決意した。
神様は助けを求める人々を救いたいとおっしゃっていた。
ならば、私もひたすらそれを実行するだけだ。神様の望みを叶えるために。
そうして、上からの指令は神様の声だと思いただひたすらに任務をこなし続けた。
それが今の私にできること。それが私に許されたこと。

 どんな辛い任務も苦にはならなかった。
自分の行うことの全てが神様のためになるのならこんなに喜ばしいことはない。
むしろそれ以外のことをする時の方が苦痛に思えた。食べる時、寝る時、他愛のない話をする時。

 だが、神様と会う時は別だ。神様と食べるものなら何でも頬っ辺が落ちそうなほど美味しく感じるし、
神様と話すことならどんな些細で取り留めのないことでも面白く感じた。

 ただひたすら尽くすと決めたはずなのに、こっちを向いて欲しい、傍にいたいと願ってしまう。

 私のことを疎ましく思っている教会の上層部の連中の嫌がらせか、私が神様に会う機会は徐々に減らされていった。
何かと理由をつけては、神様と会えない任務日程を組まされて、もう二年以上直接顔を見ていない。
私をいつも励まし守ってくれていた銀色の腕輪も今はもうない。
いつかの戦いの中で落としたらしく気がついた時にはなくなっていた。
必死で探したがそれも虚しくついにあの銀色の輝きが私の手元に戻ってくることはなかった。

 神様との繋がりが見えなくなって来ていることに只ならぬ焦燥感を感じていた。
何よりも、新聞で目にする写真。
神様の顔はもう皺くちゃで、一人で立つこともままならず車椅子に乗った姿を見せていた。
 そう、時間がないのだ。しかし、それもあと少しの辛抱。

 「これさえ、こいつさえ倒せば神つきの騎士になれるんだ!」

 目の前の人間崩れの化け者目掛けて剣を振る。
神つきの騎士になるための試験として私に課せられた任務は魔境に巣食う悪魔の退治だ。
魔境に行って生きて帰ってきたものはいないと言われている。
遠まわしに死ねと言われているようなものだった。
だが、そんなことは関係なかったし、自分が死ぬとも思わなかった。

 「神様さえいてくれれば私は何だってできる!」

 もう五日も戦い通しでとっくに腕の感覚なんてなくなっている。でもそんなことは気にならない。
そうだ、腹に穴が空こうが足がもげようが、何度でも立ちあがれる。その先に神様がいるのなら。

 「約束したんだ、世界一の騎士になると。神つきの騎士になって今度は私が神様を護るんだ」

 黒い羽の生えた異形の悪魔の心臓に剣を突き刺す。
汚らしい悲鳴を上げて体をバタつかせていたが直に動かなくなり、剣を引き抜くと地面へと崩れ落ちた。
念には念をいれて足で頭部を踏み潰す。

 「はぁっ、はぁっ。ついに、ついにやったんだ」

 ろくに呼吸ができないのに、おかしいくらいに笑いがこみあげてくる。




 あぁ、やっと帰れるんだ、神様の元へ。










 「お前の慕ってた神様はとうの昔に死んでるんだよ。だから今の神は僕ってわけ」

 「は?えっ……?そ、そんなことがあるわけ」



だが、現実はどこまでも無情だった。



■以下ネタバレ でもIF設定になるかも


 「ねぇ、神様。世界が平和になったらもう神様なんていらないですよね」

 どうして今までこんな簡単なことに気づけなかったのだろうと思う。
神様の背負っているものを一緒に分け合い支えてあげる?
いいや、私が世界の全てを救うんだ。そうすれば神様がすることはもう何もなくなる。
神様は神様である必要がなくなるのだ。

 「そうしたら、神様は私だけのものになってくれますか?」

 教会の地下。氷づけにされもの言わぬ姿となった神様に話しかける。
当然何も答えてはくれない。でも私には聞こえる、神様の声が。

 「大丈夫、あなたが愛したこの世界<地上>は私が守ってみせますから。
  魔界の連中にも天界の連中にも手出しはさせない。あなたの願いを汚すものは、私が全てなぎ払う」

 愛おしむように氷にそっと手を触れる。ひんやりとしていて、かつて神様が与えてくれた暖かさはもう感じられない。

 「もう少し待っていてくださいね。全てが終わったら、迎えに来ますから」

 そう、世界が平和になったらまた二人で紅茶でも飲みながらたくさんお話しをしましょう。
その時を想像すると今からの戦いもひどく楽しいものに思える。

 「まずは悪魔退治からですね。フフッ、楽しみだなぁあいつと戦うの」

 かつて主として仕えていた黒髪の青年の姿を思い出す。いつも人を見下し高慢でどうしようもない奴。
だが嫌いではなかったかもしれない。共に旅をしていた頃のことを思い出すと自然と口元がほころぶ。

 「……いや、何を考えているんだ、私は」

 そんな思い出を頭の中から追い出すように首を振った。
そう、これでいい。私の道を阻む者は誰であっても容赦はしない。


 「もういいかしら?」
 「ええ。神様のことをお願いします」
 「分かったわ。それじゃあ頼んだわよ、ライト。貴方の手でこの歪んだ神制度を断ち切ってちょうだい」
 
 「言われなくともそのつもりですよ。――様」

PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
エイト
性別:
非公開
職業:
学生
趣味:
お絵描き・ゲーム
バーコード
ブログ内検索
最古記事
P R
カウンター
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]