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14 . May
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17 . November
過去話。ライト編。シリアス。割とずっと陰鬱な感じ。



  気がつけば暗闇の中にいた。気がつけば独りきりだった。

 風の音を聞きながらいつものように木の幹に寄りかかって座り込み、何もせずただ時間が過ぎるのを待つ。
孤児院の裏にあるこの大きな木のそばだけがおれの居場所だった。
遠くの方から子どもたちの楽しそうに遊ぶ声が聞こえてくる。
そうしてしばらくぼんやりしていると、がさがさと草を掻き分ける音と一つの足音が近づいてきた。
また誰かがおれのことをいじめにきたのか。
嫌いなら放っておいてくれればいいのに。

 「君は一人で何をしているんだい?他の子供たちはみんな向こうで遊んでいるよ」

 しかし上から降ってきた声はおれが思っていたものではなく、少し枯れていて老人のもののようだった。
何をしてるの、と言われても何もしてないのだから答えようがない。
この人は何を言ってるんだ。おれが口をつぐんでいるとまた上から声が降ってきた。

 「私からみんなに声をかけてこようか?」

 その言葉にかっと頭に血が上る。

 「余計なことしないでよ!おれは目が見えないから体を動かす遊びはできないんだ」

 無理に輪の中に入ったって馬鹿にされるか邪魔だと疎まれるだけだ。そんなの今までの経験で痛いほど知ってる。

 「なら室内で遊んでいる子たちと一緒に」
 「うるさいな!放っておいてよ!」

 声の降ってきた方を向いて怒鳴る。おせっかい焼きめ。さっさと失せろ。いなくなっちまえ。

 「癇に障ることを言ったのなら謝るよ。でも君はどうしてそんな頑なに一人でいようとするんだい?」

 それでもまだ声の人はいなくなってくれなかった。しつこく話しかけてくる。
無視しても黙ってその場にい続けそうだったので仕方がなく答えてやった。

 「べつに。みんなおれのこと化け物とか悪魔とか言ってくるから一緒にいたくないんだ」

 悪口だけじゃない、孤児院の先生たちの見てないところで蹴ったり殴られたりすることもよくあった。
抵抗できる力もない。一方的な暴力だ。でもそれを口に出して言うのは躊躇われた。
自分が弱いと自分で認めてしまっているようで。だから言わなかった。

 「それはひどいなぁ。よし、おじいさんからみんなに注意しておこう」
 「……嘘ばっかり」

 ああ、この人も同じなんだと目の前の暗闇が更に深さを増す。

 「どうしてそう思うんだい?」
 「知ってるんだ。孤児院の先生たちだってその場では注意するけど、
  裏では同じようにおれの悪口言ってるんだよ。大人なんて信用できるもんか」

 夜、眠れなくて水を飲みに共用ルームに入ろうとした時、
中から話し声が聞こえてきたので、気づかれないよう廊下で聞き耳を立てたことがあった。
そしたら大人たちがおれの名前をあげて、「手のかかる困った子だ」とか
「気味が悪い」とか「何を考えてるのか分からない」とか言っているのが聞こえた。
だから元からおれのことを本気で助ける気なんてないんだ。あわよくばいなくなれとでも思ってるんだろう。

 「いつからそういう状態なんだい?」

 老人の声で、現実に引き戻される。

 「覚えてないよ。ずっと前から。おれみたいに目が見えなくてとろい奴は邪魔なんだよ。
  親もそう思ったからおれのこと捨てたんだ」

 「両親のこと覚えているのかい?」

 親のことなど何も覚えちゃいない。気づけばこの孤児院に独りでいた。

 「いいや。でも孤児院にいるってことはそういうことだろ?」
 「それは分からないよ。もしかしたら事故や病気で亡くなったのかもしれない」

 だからなんだっていうんだ。

 「どうでもいいよ、そんなこと。結局傍にいてくれないならおんなじことだもん」
 「そうか、君は寂しいんだね」

 おれの頭にぽんと手らしきものが乗せられわしゃわしゃと髪を撫でられた。
人の頭に勝手に触るなんて失礼だ、この人は。でも、何故かその手を振り払うことはできなかった。

 「べつに。もう慣れたし何も感じないよ」

 そうだ、独りでいる方が楽なんだ。誰かといるよりずっと傷つかなくて済む。
老人は「そうか」と何故だか悲しそうな声をしてまたおれの頭を撫でた。

 「君には将来の夢ってあるかい?」
 「いきなりなに?」

 ほんとうにこの人は唐突だ。

 「いいから」

 そう言われて少し考えてみたが何も思いつかない。
おれにできそうなこともやりたいと思うことも何ひとつ浮かばなかった。

 「ないよ。そんなもの。この目とおんなじで何にも見えない」
 「目が見えたら、君は夢を持てるようになるかな」
 「目が見えたら?そんなの無理だよ。医者に見せるようなお金なんかないし」

 おれのためにそんな大金を出して助けてくれようとする人なんているわけがない。
そんなことしたって何の得にもならないんだから。

 「大丈夫、おじいさんが治してあげよう」
 「えっ?おじいさんお医者さんなの?」

 見えないけれども反射的に顔は声の方を追っていた。

 「いいや、おじいさんは魔法使いなんだ。さあ、目をつぶってごらん」

 魔法使いなんてそんな嘘だと思った。
世界にほんの十数人しかいないと言われているあの魔法使いがおれなんかの前に現れるわけなどない。
だけど、このおじいさんの言葉を信じてみたいと思った。少しでも可能性があるのなら。
言われた通りにいつもは開けっ放しの目をそっと閉じる。
目元を手の平で覆われたような感触がする。おじいさんの手はとても温かかった。
真っ黒に閉ざされた闇の中に一つの点がみえてくる。それが何色というものなのかは分からない。
だが黒以外の何かだ。その点がどんどんと黒いものを上から塗りつぶしていく。
 
 「さぁ、目をあけてごらん」

 おそるおそる瞼を開けるとそこには正真正銘見たこともない世界が広がっていた。

 「っつ!」

 目が潰れそうに熱い。

 「これが、光……?」
 「そうだよ、どうだい。世界は君が思っていたよりも美しいだろう?」

 人はこの景色を美しいと呼ぶのか。上へ下へ右へ左へと忙しなく視線を動かす。
見るもの全てが新鮮で、瞬きすることさえ惜しいと思った。
だからきっと今、おれの目に映っているものたちは美しいというんだろう。

 「うん」

 おれは小さく頷いた。

 「これで君もみんなと一緒に遊べるね」

 その言葉に冷や水を浴びせられたような気分になった。折角の清清しい気分が台無しだ。

 「そんな簡単なことじゃないよ。目が見えるようになったからって、
  あいつらのことすぐには許せない。周りの人間はみんな嫌いだよ」
 「ああ、今はそれでもいいよ。これから君の世界は広がっていく。
  そうしたら人のことも好きになっていけるさ」

 そう言っておじいさんはおれの背中をゆっくりと撫でた。
その時のおじいさんの顔がいったいどんな感情を表すものなのか、おれにはまだわからなかった。
でも優しい声だと思った。

 「本当に?」

 この人なら信じてみてもいいのだろうか。

 「ああ」

 おじいさんはゆっくりと頷く。それと同時にガシャガシャと喧しい音を立てて何かが近づいてきた。

 「神様!こんなところにおられたのですか!コラ!お前、どこの子供だ」

 近づいて来た人だと思われるものにゴンと頭を叩かれた。だが今はそんな痛みも気にならない。
おれは呆然としながら、新しくやってきた人に連れられて遠ざかっていくおじいさんの背を見つめ続けた。

 「かみ……さま?」
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